ぷくろー
「株式の取引には、手数料がかかる」
そんなこれまでの常識が変わるかもしれません。
2019年10月30日、SBIホールディングスは、同社の決算説明会にて、証券事業における手数料無料化の3カ年計画を発表しました。
手数料無料化のことを、彼らは「ネオ証券化」と呼んでいます。
本記事では、ネオ証券化の詳細、そして、手数料無料化が先行して進んでいる米国の事例について解説していきます。
目次
SBIの手数料完全無料化「ネオ証券化」とは?
まずは、SBIホールディングスの手数料完全無料化「ネオ証券化」について詳しく解説していきましょう。
SBIの「ネオ証券化」とは?
ネオ証券化とはどのような意味なのでしょうか?
決算説明会資料によると、「ネオ証券化=売買手数料や、現在投資家が負担している一部費用の無料化を図る」と定義されています。
「ネオ」は「新しい」といった意味を表す言葉なので、「新しい証券化」、つまり、SBI証券はこれから次世代の証券事業を作っていきますよというメッセージというわけですね。
ネオ証券化のタイムライン
SBIホールディングスの「ネオ証券化」は、3カ年の計画として、タイムラインが引かれています。
このように、まずはテスト的なところから、最後に本丸を変えていくという順序ですね。
ぷくろー
SBIのネオ証券化に向けた施策
では、ネオ証券化に向けて、SBIホールディングスは、どのようにビジネスモデルを構築していくのでしょうか?
決算説明会資料によると、リテールビジネスのポジショニング向上、株式信託手数料に依存しない事業基盤の確立、AI活用やRPA化の推進等によるコスト削減などがあげられています。
「株式信託手数料に依存しない事業基盤の確立」をさらに詳しくみると、以下のようになっています。
- プライマリーやセカンダリーの株式・債券の引受業務やM&A関連事業に注力することで、ホールセールビジネスを一層拡充
- 金融法人部を通じ、顧客金融機関へのブローカレッジビジネスを拡大
- FXおよび暗号資産取引事業拡大による収益力強化
収益性という観点では、このあたりが肝になってきそうですね。
ぷくろー
ネオ証券化のモデル企業「ロビンフッド(Robinhood)」
では、次に、SBIホールディングスの「ネオ証券化」のモデルにもなっている、米国のFinTechスタートアップ「ロビンフッド(Robinhood)」をみてみましょう。
SBIホールディングスの決算説明会資料にも、丸々1ページを割いているほどなので、相当研究しているのでしょう。
そんなロビンフッドのビジネスをトレースしていきましょう。
ロビンフッド(Robinhood)は時価総額8,200億円の超特大ユニコーン
ロビンフッドは、スタートアップ界隈で非常に有名な存在です。
それもそのはず、2013年創業ながら、これまでに8.6億ドル(約930億円)を調達し、時価総額は76億ドル(約8,200億円)にも達しているのです。
ちなみに、2019年11月1日現在のSBIホールディングスの時価総額は5,500億円。
ロビンフッドは、創業から5年で、今年創業20周年を迎えたSBIの時価総額を優に超えてきているわけです。
手数料無料で株式・仮想通貨取引、銀行業へも
ロビンフッドは、「取引手数料が無料の株式取引アプリ」をまずリリースしました。
その後、仮想通貨トレードの機能、そしてこれから銀行業も取得し、高金利の預金サービスも展開するようです。

累計ユーザー数は600万人を超え、収益も2018年だけで227%成長とのことで、急成長を遂げています。
ロビンフッドのビジネスモデル
ロビンフッドは、取引手数料は無料ですが、どのようにして収益をあげているのでしょうか?
ロビンフッドの会社説明スライドによると、以下の3つの収益の柱があります。
- 未使用預金の金利
- 月間5ドルの有料版「Robinhood Gold」
- 高頻度取引会社への顧客取引販売
1点目は分かりやすいですね。ユーザーが口座に入れているお金を用いて運用しているという銀行的な機能。
2点目の「Robinhood Gold」では、モーニングスターによる詳細レポートを閲覧できる「Professional Research」と、Nasdaqから直接リアルタイムの売買をモニタリングできる「Level Ⅱ Market Data」という2つの追加機能が提供されています。
3点目は、非常に議論を呼んでいる点です。ロビンフッドでは、ユーザーからの注文を、高頻度取引会社である Virtu や Citadel Securities という会社に売ることで、収益を立てているというわけです。
高頻度取引は、注文するコンピュータの性能差を利用した「ズルい」方法であり、相場の過度な乱高下を誘発するといった問題点も指摘されており、法律上はOKなもののグレーな存在です。
ロビンフッドの収益の4割以上がこの高頻度取引からもたらされていると言われており、これは持続性のあるビジネスモデルなのかというと怪しいというわけです。
(引用元:世界初の「高頻度取引」はどのようにして始まったのか? / Gigazine)
米国最大手証券会社も手数料無料化へ
これと関連して、米国最大の証券会社の1つであるチャールズ・シュワブも、2019年10月1日に手数料無料化の計画を発表しました。

この発表を受けて、各オンライン証券会社の株価は急落しました。大きいところでは、TDアメリトレード・ホールディングは26%安、Eトレード・ファイナンシャルは16%安と大幅な下落を見せています。
これらは、手数料無料化による収益暴落を想定した市場の動きです。
業界リーダーが手数料無料化に踏み切ると、サービスに大きな違いのない証券ビジネスにおいて、リーダーに追随せざるをえない状況ということも分かりますね。
SBIのネオ証券化は個人投資家にとってはハッピー
さて、さいごに、個人投資家目線で、今回の動きについてみていきましょう。
基本的には、個人投資家にとってはハッピーなニュースだと考えています。
SBI証券が牽引すれば、他社も追随せざるをえない
なぜなら、さきほどチャールズ・シュワブの手数料無料化によって、他オンライン証券会社の株価が下落したように、業界リーダーの無料化に対して他社も追随せざるをえない状況が容易に想像できるからです。

そのため、SBI証券の今回の動きをうけて、楽天証券やマネックス証券の内部では今急速に議論が進んでいるのではと期待しています。
楽天証券はグループ内サービスもあり様々な工夫ができそう
業界第2位の楽天証券には、特に期待をしています。
なぜなら、ビジネスモデルを構築する上で、グループ内サービスが充実していればいるこそ、様々な収益化ポイントを見つけ出すことができるからです。
たとえば、シンプルに楽天証券の無料化により、現在楽天グループのサービスをあまり利用していない「アマゾン派」な人が楽天証券をきっかけに楽天銀行や楽天市場を利用しようとなるかもしれません。
うまい導線設計と、楽天ポイントの運用により、さまざまな工夫ができると思います。
ロビンフッドの礼賛は危険かもしれない
一方で、SBIホールディングスの決算説明会において、ロビンフッドの事例が大きく取り上げられていることに対しては、若干危険もあるかなとは思いました。
先述のとおり、ロビンフッドの収益の4割以上は、高頻度取引会社へのユーザーの注文販売によって成り立っています。
「この高頻度取引会社への注文データの販売という収益源なしで考えたときに、ロビンフッドのビジネスモデルは成立するのか」というのは、十分に検証してみる必要があるのではと考えています。
一方、チャールズ・シュワブの無料化についても注目ですね。まだ無料化から1ヶ月も経過していませんが、次の決算でどのような数字になっているのか楽しみにしています。
まとめ
本記事では、SBIの「ネオ証券化=手数料無料化」についての解説と、関連する事例として米国のロビンフッドとチャールズ・シュワブの事例について紹介してきました。
サービスはコモディティ化するとどんどん低額になっていき、最終的には無料化される。
そんなビジネスの流れが見えますね。そしてそこに業界リーダーのSBIが飛び込んでいったことは、本当に素晴らしいことだと思います。
個人投資家としては、今後の各社の動きがどうなっていくのか、またSBI証券の収益はどうなっていくのか、そのあたりに注目ですね。
ぷくろー
証券会社の未来のビジネスモデルについては、以下の記事にまとめています。さらに深く知りたい方はどうぞ。
